地域課題の解決を叶える共創の在り方を探る【ヨコラボレポート vol.1】

横浜の協働・共創を知り、学ぶ、楽しむイベント「ヨコラボ 2023(YOKOHAMA Co-lab.2023)」を、2023年10月30日(月)〜11月4日(土)に開催しました。

「ヨコラボ 2023(以下、ヨコラボ)」は、複雑化・多様化する社会課題や地域課題の解決に向け、市民活動団体やNPO法人、企業などの多様な主体と行政との協働・共創の取組をさらに推進していくことを目的とする新たな公民連携の発信・対話の場です。

本記事では、10月31日(火)に開催したセッションの様子をご紹介します。

目次

よこはま共創コンソーシアムによるパネルディスカッション

セッション①

<登壇者> *敬称略
▽進行:内田裕子(経済ジャーナリスト イノベディア代表)
▽特別ゲスト: 大澤幸生(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授)
▽前川知英(株式会社トラストアーキテクチャ代表取締役 よこはま共創コンソーシアム)
▽杉浦裕樹(横浜コミュニティデザイン・ラボ代表理事 よこはま共創コンソーシアム)
▽川口大治(株式会社横浜セイビ代表取締役 よこはま共創コンソーシアム)
▽高岡玲子(いよいよ株式会社代表取締役 よこはま共創コンソーシアム)
▽室井梨那(ハーチ株式会社事業推進担当 よこはま共創コンソーシアム)

本セッションは、よこはま共創コンソーシアム各代表者が創りたい「未来の横浜の理想像」をテーマに、ウェルビーイング実現のためにコンソーシアムができることについて考えるセッションです。

これまで長年にわたり横浜で「共創」のあり方について考え、活動を推進してきた内田さんがモデレーターを務めました。

内田さん「『協働』と『共創』は何が違うんだろう?これはなかなか理解するのが難しいのですが、そのくらい地域の課題は複雑に絡み合っているということなのです。複雑化した地域課題の解決に向けて、誰が横浜の未来を担っていくのでしょうか。その手法の一つが、『共創』なのです。そして、これからの共創を考えるうえでの挑戦は、いかに利益追求できるような方法で多様な課題を解決していくのか、だと思っています」

特別ゲストである東京大学の大澤さんと、よこはまコンソーシアムの代表を務める前川さんは、はじめに、次のように述べました。

大澤さん「普段、横浜市内でバラバラに活動しているように見える各企業や団体ですが、それら同士が実はモヤっと繋がりあって地域が機能しているということを認識することが重要ではないでしょうか。また、そのうえで気をつけなければならないのが、ヒトがデータに引っ張られないようにすることです。データドリブンな社会ではなく、我々ヒトがデータをドライブすることでイノベーションを起こせる地域にしていきたいと考えています」

前川さん「これまでの寄付を前提とした捉え方では、景気や業績が悪くなった時に企業が寄付を切り上げてしまうため、課題解決の取り組みに持続可能性がありません。これからは、『地域課題や社会課題の解決はこれからの企業にとってお金になる時代なのだ』というように考え方を変えていく必要があります。決して大きく儲かるわけではないけれど、地域とともに活動することで収益に継続性が生まれ、必要な人的リソースも確保できる。そんな事業の確立に、我々よこはまコンソーシアムは取り組んでいます」

現在、喫緊の地域課題と企業や個人の意思がどのように結びついているのかを可視化するツールの開発を進めているよこはまコンソーシアム。構成団体を代表する各メンバーからも、これからの共創のあり方について次のような意見があがりました。

川口さん「戸塚区で高齢者向けのスマホ教室や防災教室を開催しています。特に高齢者向けの講座では『家族が教えても嫌がる』、『業者による講座は勧誘のイメージがあり抵抗感を憶える』といった理由から消極的な方が多いようです。その点、我々の講座には安心感をもって参加してくれる方が多くおり、まさに我々だからできることなのだと実感しています。ビジネスとして共創に携わりお金を作っていくためには、決して片手間で向き合わず、本腰を入れて取り組むことが不可欠だ考えています」

杉浦さん「例えば、道端にごみが落ちていたら当たり前のように拾う、という人は多くいると思います。現在共創に本腰を入れて関わっている人は、そういった「公益のために」という気持ちや、まちに対して何か関わろうという意識が特に高い人々なのではないでしょうか。自分が暮らす地域のなかに、『苦しい』『辛い』『嫌』のような負の感情を持っている人が減ったらいいな、という想いをもち、その解決を創造的に捉えている人の集まりが、このよこはま共創コンソーシアムです」

高岡さん「地域課題の解決は、まさに『言うは易し行うは難し』の通りだと思っています。企業にとって、地域の課題が自分のビジネスのテリトリーだと思ってもらえるかどうか、が重要です。現状では、企業と行政の温度感や時間軸が違っていることが、より良い共創の壁になっていることを感じています。道筋を可視化し、課題を見えやすくしていくことが早道なのではないでしょうか」

室井さん「若い世代の友人と話していると『なぜ上の世代が生産した社会課題を我々が解決しないといけないのか』と、課題と向き合うことに後向きな感情を抱いている人もいることを感じます。共創を通じた地域課題の解決を進めていくためには、取り組みによって得られる価値が、金銭や社会貢献、それ以外にも可能な限り多様であることが求められているのではないでしょうか」

本セッションの終わりに、前川さんから「横浜には、これまでいろんな方がいろんな視点や切り口で取り組んできた積み上げがあります。よこはま共創コンソーシアムを通じて横浜の地域や『共創』のあり方について学ぶなかで、『できそうな気がする』という前向きな気持ちを抱くようになりました。このチャンスを活かし、横浜らしい共創が実現していくことを期待しています」というコメントがありました。

本セッションにて放映いたしました「よこはま共創コンソーシアム」に関する動画も、ぜひご覧ください。「共創」と「協働」のちがいや、我々が目指す地域課題解決の形について、わかりやすく解説しています。

セッション②

<登壇者> *敬称略
▽進行:前川知英(株式会社トラストアーキテクチャ代表取締役 よこはま共創コンソーシアム)
▽大澤幸生(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授)
▽江森克治(特定非営利活動法人 横浜スタンダード推進協議会 理事長 よこはま共創コンソーシアム)
▽別府幹雄(株式会社ガバメイツ代表取締役 よこはま共創コンソーシアム)
▽古瀬謙一(横浜市政策局共創推進課 課長)
▽松本圭市(横浜市経済局中小企業振興課 課長)

本セッションでは、企業が行政と共創を進める上で、企業側が行政に求める対話の在り方について議論しました。

まず初めに、横浜市政策局の古瀬さんより、「横浜コード(横浜市における市民活動との協働に関する基本方針)」の紹介がありました。

横浜コードは、横浜市市民協働条例として位置付けられており、「市民活動と行政が協働して公共的課題の解決にあたるため、協働関係を築く上での基本的な事項を定め、公益の増進に寄与することを目的」(出典:横浜市ホームページ)としています。

よこはま共創コンソーシアムにおいても、横浜コードの定めに則り活動を進めていくことを確認しました。

これまでに、横浜市内外で様々な地域課題の解決に向けた取り組みの経験がある、よこはま共創コンソーシアムのメンバーは、『共創』の推進における現状の課題について次のように言及しました。

江森さん「一昔前には、行政のなかに地域の企業と協力して課題を解決していこう、というような発想はなかったように思います。私も、『地域のために何かしなければ』という想いを持った企業や人々でいくつかの取り組みを行ってきましたが、地域課題解決はボランティア的なものという感覚があったと思います。そのため、企業側もあくまでも自分たちのできる範囲で取り組むことしかできません。今日のよこはま共創コンソーシアムでも、『行政と企業が共に課題を解決していくんだ!』という意識や認識が、両者のなかでまだ熟成されていないように思います。ここが、現状の課題ではないでしょうか」

別府さん「行政が企業に対して抱く抵抗感は、課題の原因にあるかもしれません。それでは、企業側は果たして行政や自治体とビジネスすることに前向きになれているのでしょうか。企業のなかにも、行政に対して納期が厳しいとか、他の民間企業からの見え方が気になるとかで行政との仕事に対して後向きな固定概念があるかもしれません。それは、大手企業から中小企業まで一貫して言えることだと感じます。企業側から行政に対して、より前向きかつ積極的に提案していこうという風潮があると良いと思っています」

これに対し、横浜市経済局の松本さんと、よこはま共創コンソーシアム代表の前川さんは次のように述べました。

松本さん「企業にとっての課題、賃上げから、人手不足、燃料高騰など多種多様だと思います。目の前に多くの課題があるため、地域全体の課題解決にまで働きかけるのは難しいと想像します。だからこそ『横浜版地域貢献企業認定制度』のように、身近な地域課題に関心のある企業を可視化することが大切です。他方、地域課題解決の取り組みに未だボランティア的な側面が大きいのは事実だと感じています。これまでの取り組みを見直したり、制度を刷新したりして、企業と共に事業として地域課題の解決に向き合うことを可能にしていきたいです」

前川さん「本業のやりくりが大変で、地域課題解決にまで及ばない、という民間企業の事情は未だ強くあります。地域課題の多くは、当事者の数が増えることはあっても自然と減ることはない場合がほとんどだと考えます。ですから『企業が利益追求をしながらビジネスとして課題解決に取り組んでいいんだ』と思える環境を目指し、その解決に向き合う人口を増やしていきたいです」

セッションの後半では、「理想の共創」に向けた現状の施策について議論しました。

別府さん「行政の立場では『平等』への配慮が不可欠だと思いますが、民間の場合は、実現できるかどうかはさておきあらゆる提案を行うことに問題はないはずです。そこで、特に中小企業の力が大きいと考えています。共創や協働で力を合わせて取り組むには、大企業ではコンプライアンス面での制約が課題となる可能性があります。また、予算も決して大きくないため、大企業が取り組むには向かない場合も多いと思います。中小企業であれば、地域課題解決に対して行政が必要としているニッチな領域を専門とし、かつ限られた資金で小規模でも携わることができるという場合が多くあるはずです。横浜で、そのマーケットをぜひ発展させていきたいです」

江森さん「共創に対して、企業側の方がピンときていないのではないか?お互いの歩み寄り。『理想の共創』の形に到達するまでに、行政側も企業側も道のりは長いと思います。しかし、これまでと同じことをしているだけでは、今後じりじりと貧しくなっていくだけですから、イノベーションを起こさなければなりませ。これからの時代のあり方を互いに歩み寄って学び、社会として底上げされたところに、理想的な共創の形を実現できるパワーが生まれるのだと考えます」

会場の様子

横浜市経済局の松本さんからは、イノベーションの推進事例として、関内エリアを中心とするYOXO(よくぞ)の取り組みをご紹介いただきました。

松本さん「YOXOでは、社会課題解決のアイデアを形にするためのイノベーションスクールや、アイデアを実践に繋げるためのスタートアップ社会実証・実装支援プログラムを提供し、社会課題の解決に挑戦する起業家やスタートアップを支援する枠組みを整えています」

終わりに、今日のセッションを振り返り、次のようなコメントがありました。

古瀬さん「横浜コードに賛同してくれる企業は増えていますが、その速度はとても緩やかです。企業側にも行政側にもまだまだ共創という言葉が根付いていない実感がありますので、このヨコラボのような場をもって、理解を深めるきっかけを作っていくことの重要性を感じました」

大澤さん「既存のものを組み合わせることでイノベーションが可能になる、と言います。しかし、色々な人のアイデアを並べただけではイノベーションは起こらないということは、この数十年の研究でわかっていますから、本当に既存のものだけで良いのだろうか、と考えています。とは言うものの、チャンスは準備されたところに宿りますので、まずは日常からのコミュニケーションを通じた自助共助が不可欠です。それはすなわち、コミュニケーションを単なる世間話にとどまらせず、『何かあったら助け合おう』という共通認識を日頃から持っておくことです。そして、そのようなコミュニケーションを行政から市民へ日常的に奨励できると良いと思います」

2つのセッションを通じて、よこはま共創コンソーシアムが考える「理想の共創」の形について議論しました。企業側も行政側にも、意識改革や歩み寄りなど、できることが多くあることがわかりました。

セッション「竹山団地×すすき野団地で取り組む団地再生プロジェクト」

<登壇者> *敬称略
▽進行:関口昌幸(横浜市政策局共創推進課)
▽藤原徹平(横浜国立大学大学院准教授 よこはま共創コンソーシアム)
▽大森酉三郎(非営利活動法人KUSC 神奈川大学サッカー部監督 よこはま共創コンソーシアム)
▽藤森茂和(非営利活動法人KUSC 神奈川大学サッカー部 よこはま共創コンソーシアム)
▽小柴健一(一般社団法人団地暮らしの共創事務局長 よこはま共創コンソーシアム)

本セッションは、横浜市内で団地コミュニティを軸とする地域課題解決に取り組むよこはま共創コンソーシアムのメンバーが活動の進捗と課題の共有です。

はじめに、第8次産業をテーマとしたタブロイド紙「YOKOHAMA CIRCULAR ECONOMY PLUS」の紹介を行いました。

同タブロイド紙は、よこはま共創コンソーシアムが2023年9月に発行したもので、「よこはまからはじまる地域循環型団地」を特集しています。

関口さん「横浜は大都市ですが、農業が盛んで、養蜂やオリーブなど郊外部で新しい農業の形が生まれています。地方創生の切り札である6次産業に、持続・循環・共創のキーワードを掛け合わせた8次産業の構築を、サーキュラーエコノミーplusの推進と並行して進めていきたいと思っています」

藤原さん「産業的な学術的定義を言えば、農業には1次・2次・3次しかなく、6次化や8次化というのはそれらを掛け合わせた政策的なフレーズです。横浜市内は土地の7%が農地であり、そこから生まれる売り上げは現在100億円を超えていますが、この数字は全国的に見れば低い方なのです。今日紹介する2箇所の団地の周辺には農地があり、農業プロジェクトが立ち上がっています。今日のセッションは団地がテーマですが、産業の8次化と団地のコミュニティ再生は相互作用があるのではないかと予感しています。具体的にどんなことが起こりうるかについては、タブロイド紙にまとめていますので、ぜひご覧ください」

続いて、神奈川大学サッカー部の学生とともに竹山団地のコミュニティ活性に取り組んでいる非営利活動法人KUSC(以下、KUSC)の大森さんから、活動のこれまでについて共有いただきました。

神奈川大学サッカー部では、学生が竹山団地の一部を学生寮として借り上げ、学生たちはそこに住みながら団地コミュニティの活性化をサポートしています。サッカー部の学生にとって竹山団地での活動は、単なる社会貢献ではないそう。

大森さん「サッカーの現場運営は、様々な方が関わってくださるおかげで成り立っていますから、選手たちには、自分のことだけを考えてプレーするのではなく、様々な人の立場も考えてプレーすることを学んで欲しいと思っています。竹山団地での活動を通じて多様な人々と交流したり、他人のことを考えたりする経験は、選手のメンタルトレーニングにもなっています」

取り組みを開始してからこれまで約3年半、団地内の食堂運営を学生自ら手伝ったり、住民向けにスマホ教室や介護予防教室を企画したり、強制的にコミュニティに関わっていくことができるような仕掛けを施してきたそうです。

大森さん「この『共創』の時代に、他人のことを自分のことのように考えられる精神を持った学生・選手を育てたいです」

続いて、すすきの団地で地域課題解決に取り組む一般社団法人団地暮らしの共創 事務局長の小柴さんより取り組みの共有がありました。

すすきの団地は、総戸数820戸、住民数およそ1400人、東京ドーム約1.5個分の敷地規模の分譲団地です。現在、高齢化率は50%を超えており、住民の高齢化と設備の高経年化、という二つの老いが課題です。

分譲団地での意思決定は、基本的に組合員の合意があってなされます。例えば設備の高齢化に対してアプローチしようとしても、組合員、すなわち住民皆の同意がなければ管理費用の徴収や建物の建て替えができません。住民の高齢化が進むなかで、組合員の合意形成は複雑さを増しているといいます。

小柴さん「管理組合や自治会の基本任期は1年ですが、1年では中長期的なコミュニティの課題には向き合うことができません。そこで設立したのが、法人団地暮らしの共創です。法人なので、お金を回さないと運営ができないところに課題があります。それまで外部委託していた団地内の清掃を、地域や団地の住民合わせて6人で賄うところから取り組みをスタートし、現在に至ります」

2023年は、横浜市内のリビングラボや企業との連携を強化し、高齢者が安心して暮らせる地域連携包括システムを作るための検証や政策提言を可能にする仕組みづくりに取り組んでいるそうです。

★竹山団地とすすきの団地の取り組みについては、「共創ケーススタディ」のレポートもご覧ください。

関口さん「生きがいとやりがいを感じながら、地域に役割を見つけていくことは、サーキュラーエコノミーplusが目指すウェルビーイングの構築にも関連していますね」

小柴さん「課題解決を実践している自分たちが楽しい気持ちで向き合えているかどうかは、地域全体のウェルビーイングを実現できるかどうかということに直接結びついていると感じます」

藤原さん「管理組合や自治会のような、団地機能の循環を担ってきた中間集団が弱体化している昨今、KUSCのような新たな中間集団をコミュニティに投入することで集団に変化が起きていきます。活動がただの団地の活性化ではなく、地域住民にとってウェルビーイングを実現するための重要な場所となることを目指して活動しているということがよくわかりました」

藤森さん「KUSCでは来年度(2024年度)、銀行の跡地にコミュニティ拠点を設けたりトレーニングジムを設置したり、新たな循環拠点を設置する予定です。引き続き皆さまのご支援をお願い申し上げます」

小柴さん「横浜市内には、築40年以上の大規模団地が64あります。きっとどの団地でも、すすきの団地と同じような2つの老いを課題として抱えているはずです。すすきの団地や竹山団地で持続可能で循環する団地コミュニティを構築できれば、その仕組みを横展開できると考えています。この共創の取り組みをきっかけに、集合住宅全てに関わる課題解決の発信を強化していきたいです」

共創アクションセミナー「公民連携/共創フロントを通じた連携のチカラ」共創フロントの紹介、事例紹介(地域交通問題の解決に向けた取り組み)

<登壇者(前半)> *敬称略
▽小谷友介(横浜市政策局共創推進課)
▽須那亮友(横浜市都市整備局都市交通課)

セッション前半では、横浜市政策局と都市整備局それぞれによる共創フロントの仕組みと事例紹介です。共創フロントを活用した課題解決の具体的事例を、市職員や企業にわかりやすく解説しました。

共創フロントとは、民間事業者から公民連携に関する相談・提案を行う窓口のこと。政策局共創推進課が民間事業者と市役所各部署との橋渡し役となり、実現に向けた検討や調整を行っています。(参照:共創フロント|横浜市ホームページ

この取り組みは、2008年に始まったもの。社会課題の解決を目指し、民間事業者と行政とが対話により連携を進め、新たな価値を共に創出することが目的です。

共創フロントには、次の二つの形式があります。

  • フリー型:公民連携を希望する事業アイデアを、民間事業者が自由に提出
  • テーマ型:行政からテーマを提示し、それに合うアイデアを募集

小谷さん「横浜市が掲げる中期計画2022-2025の5つの基本姿勢の中に、『協働・共創の視点』が記載されています。つまり行政で働く我々も、行政運営の視点から公民連携を基本姿勢として仕事することを宣言しているということです」

テーマ型共創フロントの事例として、青葉区における実証実験の事例があるそうです。

本事例は、予約に応じて運行する乗合公共交通機関である「オンデマンド交通」の運行実験です。電話やインターネットで乗りたい場所と時間を指定することで利用可能です。タクシーほど自由度は高くないものの、バスよりも多くの乗降スポットがあります。料金もタクシーほど高くなく、気軽に利用できます。

検討の背景には、地域の少子高齢化による地域コミュニティのつながりの希薄化や、まちの移動サービス維持のための採算性の確保がありました。

須那さん「平日31日間の実験運行を行いました。実験エリアの人口約1.5万人に対し、システムの利用登録が184名、配車回数は476回でした。利用人数にすると、延べ628人です」

60代以上の高齢者はもちろん、30代〜50代の現役世代の利用も多く、幅広いニーズがあることがわかったそうです。エリア内の飲食店や商業施設との連携も行い、周辺施設へのあおばGOを通じた経済的利益も波及できたといいます。

本事例においては、令和5年度も同エリアでの第2回実証実験が決まっています。

須那さん「運行エリアや連携施設の拡大はもちろん、実証実験期間を6ヶ月に延長することで利用者数や利用回数をのばしたいと考えています。プロジェクトのデザインも刷新するため、地元の小学校と連携してロゴマークや愛称を公募します」

セッションの後半は、同実証実験に参画した企業間連携の当事者4社を交えたクロストークです。異業種連携の体験を共有していただきました。

<登壇者(後半)> *敬称略
▽吉本憲生(株式会社日建設計総研)
▽中嶋育夫(株式会社NTTドコモ)
▽小菅裕智(東急株式会社)
▽中川隆義(株式会社EPARK)
▽須那亮友(横浜市都市整備局都市交通課)

小菅さん「東急では、鉄道にしてもまちづくりにしても、行政と二人三脚という体制が基本姿勢にありますが、社会情勢の変化により交通に対するお客様のニーズが変わってきているという肌感があります。それらに応えるためには、一社ではできないことが多くあると感じている昨今ですので、この共創の機会を活用して進んでいきたいと思い参画しています」

中川さん「EPARKは、立ち上げから10年経っていない若い企業です。横浜という大きなプラットフォームで新規事業に挑戦できることは貴重な機会だと捉えています。若い企業にとっては、新規事業を単独でやる場合、うまくいかないとすぐに諦めてしまいがちですが、共創の体制のなかで他企業と連携していると、そう簡単にはやめられませんので、継続力を持って取り組むことができます」

他方、デメリットはプロジェクト進行のスピード感にあるといいます。自分たちが「いいな」と思ったアイデアでも、単独ですぐに動き出すことはできず、共創チームでの相談や調整に時間をかける必要があります。

須那さん「例えば、連携したい地域施設の拡大という施策はシンプルですが、施設にとって新しいシステムの適用は簡単なことではありません。各店舗のパートやアルバイトの方への情報共有や教育、店舗ごとのルールに合わせた運用は、とても煩雑で、時間もかかります」

小菅さん「東急一社だけで考えても、社内では交通の部門と百貨店など商業の部門との協働には一定の難しさがあります。会社内の組織も実は縦割りになっており、事業と事業の連携体制を敷くことは簡単ではないからです。これは、実は行政内の体制と同じなのではないかと思っています。本実証実験のように何かしらのきっかけがあれば動き出すことができますので、そこにやりがいを感じています。各社の諸々の手続きの時間差や情報格差の埋め方が、今後の課題です」

中嶋さん「私は、各社の得意分野を活かして段取りよく進んでいると感じています。とはいうものの、異業種で連携するからこそ見える自社の弱みが可視化されてくるので、その改善に取り組んでいきたいと思っています」

中川さん「合意形成に時間がかかるという課題の解決は簡単ではありませんが、やりとりに時間をかけるからこそ、自社だけではできないことが実現するというところは大きなメリットですね」

中嶋さん「浮上した課題に対しては、スピード感のある対応が求められます。関係者がとても多いため統一された一つの綺麗な答えが出ないこともありますが、それを各社が共通認識として持ったうえで進んでいくことを意識しています」

吉本さん「スピード感の課題の裏には、長期的な目標をもって取り組むことができるという利点もありますので、この考えを前提に議論することを大切にしたいです。情報連携の方法に対しては、サービスの利用者である住民も含めると、それぞれのITリテラシーも様々ですので、技術で突破できることだけではありません。お互い譲り合っていく姿勢も求められると考えています」

須那さん「日頃から密なやり取りは意識してきましたが、本日のセッションを通じて顔を合わせてのディスカッションすると、いつもとは雰囲気の違う風通しの良いコミュニケーションができることがわかりました。日頃から、様々な形でコミュニケーションをとることの必要性を感じることができました」

本セッションの最後に、小谷さんから次のようなまとめがありました。

小谷さん「本セッションを通じて、対話を通じた共感創出の重要性を再認識しました。理想の共創に向けたビジョンと、それを実現するファンクション(機能)の両輪が回りだす出発点は『共感』です。民間と行政、異なる立場ですが、対話を通じてそれぞれの考える価値や課題をさらけだし、着地点を見出す。そんな議論が深まると、本日紹介したような共創の取り組みが実現できるのだと思います。機能だけが良くても、ビジョンの共有と共感がなければ共創はうまくいきません。行政と民間両者の共感を生み出し、具体的な取り組みに昇華していくために、ぜひ共創フロントの仕組みを活用していただきたいと思います」

開催後記

大きく3つのプログラムを通じて、民間事業者、行政、その間の架け橋となる協働事業体「よこはま共創コンソーシアム」、それぞれの視点から多種多様な意見を共有することができました。

ここでの議論を卓上で終わらせず、実際の共創の実現と成果創出に結びつけることができるよう、よこはま共創コンソーシアムでは引き続き取り組みを続けてまいります。

ご登壇いただきました皆さま、ご来場いただきました皆さま、開催に向けてご尽力いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

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