4つの都市圏域から考えるサーキュラーエコノミーゾーン

370万の人口を抱える大都市・横浜は、空間軸では流域や沿線といった単位でそれぞれ独立する地域ブロックの、時間軸では形成の時期も異なる多彩な市街地から成り立っています。そのため、横浜版の地域循環経済の未来を考える上では各地の成り立ちや自然環境、人口特性を踏まえたうえで将来像を描く必要があります。そこで、ここでは横浜市を東西南北の4つの圏域に分けて、地域循環経済の視点からエリア別の特徴や可能性について見ていきます。

横浜市のエリアマップ

北部圏域(港北区・緑区・青葉区・都筑区)

  • 人口:1,065,500人(2020年)
  • 人口増減:郊外部(北部・南部・西部)では最も増加率が高い
  • 高齢者人口(65歳以上)比率:最も低い
  • 年少人口(0-14歳)比率:最も高い

市内最大の河川「鶴見川」の流域。JR横浜線と東急東横線、田園都市と市営地下鉄4号線の沿線により形成されるエリア。東急田園都市沿線などを通じて川崎北部と一体的な生活圏を形成しています。2015年から2020年までの人口増減は1.9%の増加。他の郊外圏域と比較して最も人口増加率が高いほか、年少人口の比率が12・9%(2020年)と高く、高齢者人口の比率が20・7%(2020年)と全圏域の中で最も低いのが特徴です。東京に地理的に近く「人口の都心回帰現象」の影響を受けやすい、田園都市線沿線や港北ニュータウンなどのブランド力の高い住宅地を抱えているなどの理由で、子育て層を中心に人口増が続いています。

圏域内には東京工業大学や東京都市大学など理工系の大学があり、産官学民連携による活動が活発なほか、東横沿線や港北ニュータウンを中心にNPOによる子育て支援や子ども・若者の居場所づくり、自立支援の取組みも活発に行われています。また、緑区や青葉区では耕作放棄地を活用した都市農業や地産地消の推進も盛んなほか、青葉区すすきの団地、緑区竹山団地などでは団地再生の取組みも活性化しています。大量生産・大量消費、成長を前提とする効率重視のリニアエコノミー(直線経済)システムの産物とも言える大規模団地が、学生からシニア世代まで多様な方々が交わり、建物は活かしたままに都市養蜂や都市農業などサーキュラーエコノミーのプロジェクト拠点へと生まれ変わっている点が非常に象徴的に映ります。「横浜市の中枢となる桜木町・横浜、東海道新幹線の広域的な交通ターミナルであり、市域の郊外部と都心部の結節点でもある新横浜、そして町田方面へと北部を横断する横浜線を基軸としたサーキュラーエコノミーゾーンの形成に大きな可能性があリます。

西部圏域(保土ヶ谷区・旭区・泉区・瀬谷区)

  • 人口:727,986人(2020年)
  • 人口増減:減少傾向
  • 高齢者人口(65歳以上)比率:最も高い
  • 年少人口(0-14歳)比率:低い

帷子川流域と柏尾川低地を走る相鉄本線といずみ野線、市営地下鉄1号線(戸塚駅〜湘南台駅間)の沿線によって形成されるエリア。相鉄線や市営地下鉄のネットワークによって、大和、海老名、厚木、藤沢などの県央・県西地区との関連性が深くなっています。2015年から2020年まで人口は0.4%減少。高齢者人口割合が28・2%(2020年)と最も高く、少子高齢化が急速に進んでいます。サーキュラーエコノミーの推進における西部圏域の強みは、市域では珍しくフラットな市街化調整区域内に優良な農地を抱えていること、また高齢者や障害者の社会福祉施設が数多く存在していることです。直売所の経営や引き売りなどを通じて消費者と積極的にかかわろうとする農家や、開かれた施設経営を旗印にして周辺の住宅地と積極的に交流を進める意欲を持つ社会福祉法人やNPO法人も多く、農福連携による食の循環に可能性があります。横浜臨海部への利便性を損なうことなく、農業などに携わりながら自然と調和したゆったりとした暮らしを楽しみたい人にとっては理想的なエリアだと言えます。

瀬谷区では都市養蜂など生物多様性の保全・再生とまちづくりが一体となった取り組みが展開されているほか、「旧上瀬谷通信施設」では2027年に国際園芸博覧会が開催予定となっており、横浜のサーキュラーエコノミーを世界にプロモーションするだけではなく、博覧会のレガシーを見据えた循環型のまちづくりにも期待がかかリます。また、保土ヶ谷区にある相鉄線・星川・天王町駅間の高架下再開発プロジェクトではサーキュラーエコノミーを意識したまちづくりが標榜されており、今後の発展が注目されます。

南部圏域(港南区・磯子区・金沢区・戸塚区・栄区)

  • 人口:984,821人(2020年)
  • 人口増減:微増
  • 高齢者人口(65歳以上)比率:高い
  • 年少人口(0-14歳)比率:低い

横浜最大の丘陵緑地帯である「円海山緑地」の周辺に形成された市街地を中心に、東は磯子から金沢までの海岸線によって、西は戸塚から大船までの東海道線によって縁取られたエリア。圏域内には主要な鉄道網として京急線(上大岡〜金沢八景・六浦間)とJR根岸線(磯子〜大船間)が走る。中世の鎌倉文化圏であり、現在でも京急線やJR線などの鉄道網や鎌倉街道や国道16号線などの道路網を通じて横須賀や逗子・葉山・鎌倉など三浦半島・湘南圏とのつながりが深くなっています。2015年から2020年までの人口増減をみると0.3%増と微増していますが、年少人口比率は11.6%(2020年)、高齢者人口割合は27.9%(2020年)と少子高齢化も進んでいます。

南部圏域の特徴は、丘陵や河川、崖線と渚(干潟や自然海岸)といった横浜の原風景が東部圏域などと比べると一定程度自然のまま維持保全されていることです。また、大都市圏としては恵まれた自然環境と一体となる形で大規模公園、動物園、水族館、博物館、研修・野外活動センターなど多彩な学習・レクリエーション施設や、関東学院大学や明治学院大学、横浜市立大学などの大学研究機関が立地しており、市域のみならず首都圏レベルで見ても有数の教育・文化・レクリエーション資産を抱えている点です。金沢区では、廃棄される海藻を堆肥として活用し、地元農家と小学校の連携による地域産品作りが展開されているほか、藻場の再生など海洋保全・再生に関わる教育活動やブルーカーボンの取組みが行われているのも特徴です。さらに、金沢区臨海部にはサーキュラーエコノミーの静脈を担う企業のリサイクル工場も集積しており、横浜のサーキュラーエコノミーをシステム全体で考える際に欠かせないエリアだと言えます。

東部圏域(鶴見区・神奈川区・西区・中区・南区)

  • 人口:999,184人(2020年)
  • 人口増減:最も増加率が高い
  • 高齢者人口(65歳以上)比率:低め
  • 年少人口(0-14歳)比率:最も低い

臨海都心部およびその周辺エリア。昭和30年代までに市電を中心に市街地が形成された環状2号線より内側のエリアとほぼ重なります。横浜港を中心に南北に広がる京浜臨海部と磯子・根岸の工業地帯、みなとみらい21地区や横浜駅周辺、関内・関外地区などの業務系・商業ゾーン、帷子川、鶴見川、大岡川、中村川、掘割川、入江川・滝の川などの運河沿いの埋め立て地に広がる密集市街地、旧海岸線である下末吉台地の崖線状に形成された住宅地の4つのゾーンから形成されています。市電は廃止されたが路線はそのままバス路線に引き継がれており、地下鉄や私鉄も含めて圏域内の個々の市街地を結ぶ公共交通網が密度濃く張り巡らされているのが特徴で、都心回帰現象により人口が増加している半面、他の圏域に比べて年少人口割合が10.9%(2020年)と最も低く、圏域全体の少子化が顕著となっています。

東部はヒートアイランド現象の影響もあり最も気候変動による温度上昇が大きいエリアでもあります。大企業のイノベーション拠点が集結しており、環境省・脱炭素先行地域にも指定されているみなとみらい21地区におけるサーキュラーエコノミーへの取組みが期待されるほか、みなとみらい・関内地区をつなぐ場所であり、多くの市民が訪れる横浜市庁舎低層部を活用した横浜市内全域の取組みのプロモーションも重要となります。関内・関外地区の今後は、2026年春に開業予定の横浜市旧市庁舎街区活用事業が大きな鍵を握ります。また圏域内の崖地・低地に共通して広がる細街路の木造密集市街地の防災・減災のまちづくりも喫緊の課題となっているほか、外国籍市民の比率が高い圏域でもあるため「多文化共生」をどのように進めるかもテーマの一つとなっています。